008 / 臆病
そう、心地よく眠っている彼女を起こす気がない僕は、ひとりパーソナルスペースになりきれていない彼女の部屋の天井を眺めながら、酒でも嗜む外ないわけだが。
ちなみに今頂いているのは、wild turkeyの8年。
量販店で買って2000円弱という、中の上といえるウイスキーだ。アルコールは五十度。
四十度前後での流通を主流とするウイスキー業界でこのわずか十度の差が、大変に僕の射幸心と見栄を煽った結果、彼は彼女の家のコンロ下の棚にお呼ばれした。
いや待て、そもそも。彼なのだろうか?
とんでもない可能性が浮上してしまった。
話は変わるが、今日弟子は、なんこつと僕とわたしの三角関係を提唱してきた。それくらいなんこつが好きだってことらしい。挙句、なんこつとセックスしたらイケるとか言い出した、まじかよ。
僕は過激な舌触りとおおらかな余韻からこのボトルを彼と称したが、今まさに「wild turkey女性疑惑」が浮上したわけだ。こうなると話が変わってくる。
前提として、なんこつとwild turkeyは無機物(どちらも主成分は有機物だが、生命の自覚の有無という観点で無機物に括ることを許して頂きたい)であり、僕にも弟子にも向ける感情はない。一方的に愛でられる存在というわけだ。
他方、僕は弟子を女性としても愛しており、弟子は僕の脳にずぶ濡れ状態のくせに男としてはなんとも思っていないわけである。なお、雰囲気を察しつつ前置きするが、この構図が喜劇ではないことは断固主張したい。
命題としては。
これ、四角関係というのだろうか?
いや、先程までは三角だったわけだ。
wild turkeyちゃん、余計なことを…。
…。
いや、待て。
後回しになること自体がおかしいんだが、
僕は妻帯者なのだ。
つまり五角形をなし得ることになるんじゃないか?
うーん…。
明け方に大事件が勃発しているが、
妄想なのだから仕方ない。
冷ややかな目で生温かく見守ってくださいよ、ね。
さて…
この事実をどう消化しよう…。
僕は妻と逢引の相手まで差し置いて、今wild turkeyさんと乳繰り合っている。では前提は「玖珠ノ葉ヤリチン説」として、これを否定する方向で論を進めようか。
うん、ウイスキーへの性的アプローチってなんだ?
僕は朝五時に何をやっているのだろうか。
よしんば、wild turkeyさんの華奢な口に僕のお粗末なモノを突っ込んだとして、相手は五十度。
残念なエタノール標本ができあがるだけの、そう、一度だけの情事。
脱線するが、もし彼女がなんこつでイケたらどうしようか。僕はお粗末なモノをwild turkeyさんに捧げて去勢した後に、膝を切開して彼女との情事を楽しむ外ないのだろうか。うん、痛そう。傷口に潮なんか吹かれようものならキレそう。
先刻から同じ台詞が頭の中でぐわんぐわん鳴ってる。
私は何を言っているんだ?(ハマカーン)
結局、豚なんこつをウイスキーで煮て、最凶の口当たりで彼女をアヘらせたいっていうとこで僕の妄想は終わりを迎えたわけだが。
実は僕のIQは2くらいしかないのかもしれない。
嗚呼、空が白んできた。
眠る彼女にルパンダイブを決める勇気も、犯しきる自信もなく、二時間天井を眺めた。
所謂。たまらん朝だ。