玖珠ノ葉ひとつ 

日常に一滴の思考を

007 / 宣誓

弟子が目の前で寝ている。

 

いつもは寝入りが悪い子で、僕の方が心地よく寝かせてもらっているが、今日はよほど疲れたのか僕が洗い物を済ませた時には寝息を立てていた。

 

世間的に、僕がどう評価されるなどこの際どうでも構わない。家庭がありながら、弟子とはいえ異性の家に寝泊まりしている事実は、けして正当化はできない。

 

だが、構わない。

僕は全てを受け入れる。慰謝料や離婚も、可能性としては視界の片隅にはちらつくものの、それが僕の行動を制約するには至らない。

それに、仮に妻と別れたとして。

僕側にその理由は1つとしてないし、妻は僕のこの手の義理立てを理解していると確信しているが、それでも。

何かに耐えられずに、別れる決断をしたとして。

残念ながら、その時弟子は僕を選びはしない。

 

俗世からは隔離された女なのだ。

究極に俗っぽいくせに、えげつない思考を携えて。

 

彼女は、弱い。

開けていない箱がある。

開けたらもう、どうなるかわからないほどの

爆弾を抱えていることは確信に近い。

が、僕ならこいつを抱えられる。

くまさんは強いからくまさんなんだよ。

 

今日は不本意ながら議論の場で僕が押されかけた。

真剣さの度合いはともあれ一本取られた感はある。

ん?既に負けた、のかもしれない。

無論、これを負けとしてしまえばこいつのためにならないので、戯言こねくってノーカウント扱いにはすると思うが…

 

すごい女だ。

彼女は、何でもないフリをしながら、僕の思考パターンや脳そのもののイメージ、挙句の果てにはきっちりオンナを使って僕のコンプレックスや性癖、嗜好まで把握して掌握しようとする。 

 

そう、もはや僕は死なないが。

一度の人生、こいつのために死ねると思える女にふたり出会えるなんて贅沢もいいとこだな、そう思う丑三つ時。ちょっと遅いか。

 

弟子よ、ひとつ頼みがある。

 

どうか目覚めないで。

 

このまま、ゆっくり体を休めてくれよ。

君の体躯と精神が心配だ、負荷をかけ過ぎなんだあなたは。

現世のすべてが敵でも、僕は君を愛しているのだ。

聞き入れてくれ。

 

そして妻へ。

いつも通り、僕が死ぬまで、君を愛している。

おやすみ。

 

矛盾してる?

してないよ。

敵に回してもいいんだよ、本当に。

それを代償として僕は僕の正義を買う。

 

僕の実子を二人産んだ妻と、妻が受け止めきれなかった僕の脳を後継する女は、比べられない。非難も実害もすべて僕が引き受ける。だからどうか、全ての人よ、もう少しの間、静観していて下さい。

 

僕が、この子に全てを伝えきるまで。

僕の我侭を、見逃してください。